恋のはじまりは曖昧で
現場の最寄駅に着き、電車を降りるとスマホの地図アプリを開き場所を確認する。
ここの大通りを真っ直ぐ行って右手にコンビニがあるから、そこを曲がったら現場があるはず。
歩き出して思ったのは、今日はローヒールでよかったなと。
履き慣れていないハイヒールだと転びそうになるからね。
それより、いつもデスクワークで社内にいるから、こんな時間に外に出歩くことがなくて新鮮でドキドキする。
学生時代は授業が終わってから昼間に街中を歩いたりすることがあった。
卒業して数ヶ月しか経っていないのに、ずいぶん前な気がする。
クリアファイルに入れた封筒を手に持ち、足を進めていたら目的地が見えた。
あ、あそこだ。
ここまで来たのはいいけど、部外者が勝手に工事現場に入る訳にはいかない。
田中主任に連絡しなきゃ。
バッグからスマホを取り出し、メモしてあった番号をタップした。
呼び出し音が鳴り、急に緊張してきた。
どう話そうか頭の中でシュミレーションをしていると、呼び出し音が止まる。
「もしもし、田中です」
「あっ、お疲れさまです。あの、事務の高瀬ですけど……」
「あぁ、高瀬さん。片岡さんから話は聞いてるよ。封筒、持ってきてくれたの?」
「は、はい」
電話が繋がったことにホッとしたけど、シュミレーションしていた内容が一気に飛んだ。