恋のはじまりは曖昧で
天候にも恵まれた、社員旅行当日。
集合場所からバスに乗り込み、旅行はスタートした。
バスの席順は前もってクジで決められていて、私は浅村くんと隣同士になった。
「高瀬、ポッキー食う?」
「今はいらない」
「んじゃ、ポテチは?」
「いらない」
「飴は?」
さっきから浅村くんがうるさくて、自分の鞄の中からいろいろお菓子を見せてくる。
バスに乗って十分も経たないうちにお菓子だ何だと言ってくる。
テンションがいつもより二倍増しで、若干迷惑。
私が“いらない”を連呼するから浅村くんはガックリと肩を落としている。
それを見て申し訳ない気分になるのはどうしてだろう。
「……何味?」
「へ?」
「だから飴は何味があるのか聞いてるんだけど」
「ストロベリーにメロン、アップルにレモンに……」
「じゃあレモンちょうだい」
「おう」
嬉しそうに黄色の包みに入った飴を数個渡してきた。
「ありがと」
口の中に入れるとレモンの甘酸っぱい味が広がり、コロンと舌で転がした。
浅村くんはこういうイベントとか好きだと言っただけあり、用意周到だ。
何をするのも楽しそうで羨ましい。
「お、浅村ー。いいの持ってるじゃん。俺にもちょうだい」
そう言ってきたのは、斜め前の席に座っていた田中主任。
通路側に座っている浅村くんに手を伸ばしている。