恋のはじまりは曖昧で

座った早々、すごく落ち着かない気持ちになった。
その訳は、女性社員の突き刺さるような視線を感じたからだ。
まぁ、それはそうだろう。
あのイケメン御三家を筆頭に営業の若手の浴衣姿を見られるなんて本当に貴重だ。
こういうシチュエーションじゃないと拝めない代物だ。
席は部署ごとに決められていて、広報部や経理部からのギラギラした視線が怖いぐらい。

「ねぇ、ちょっと居心地悪くない?やたら視線を感じるんだけど」

弥生さんが耳打ちしてくる。
よかった、そう思ってたのは私だけじゃなかったんだ。

「私も自分が見られている訳じゃないのに、人の視線が気になってソワソワしちゃいました」

「やっぱり?紗彩ちゃんなら分かってくれると思ってた。だって、井口さんたちなんて全く動じてないからね」

弥生さんは隣に座っていた井口さんの方を見ながら苦笑いする。

「取りあえず、私らはおとなしくしておこう」

「はい!」

同感とばかりに頷いた。
ホント、それに限る。
一人だと不安で仕方がなかったと思う。
弥生さんがいてくれてよかったよ心の底から思った。

社長の挨拶が終わり、乾杯のかけ声とともにグラスを合わせる音があちこちで聞こえる。
私も弥生さんたちとグラスを合わせ、ビールを半分ぐらい飲んだ。
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