恋のはじまりは曖昧で

さて、料理を食べようと思い、目の前の懐石料理を見て思わずため息を漏らす。
分かっていたけど、こういう席の料理って必ずお刺身が出るんだよなぁ。
旅行番組を見ていてもよく出てたし。
勿体ないけど、お刺身は残そう。

茶碗蒸しの蓋を開け、スプーンですくい口に入れる。
滑らかな舌触りで、すごく美味しい。
銀杏は食べれないこともないけど、茶碗蒸しに入れる意味がわからない。

箸を手にし、カボチャの天ぷらを抹茶塩で食べる。
衣はサクサクで、どうやったらこんなに上手に揚げれるんだろう?
私が天ぷらとか揚げ物をすると、ベちょっとなるんだよね。

「この刺身、超うめぇ!」

私の前に座っている浅村くんがパクパクと食べている。
それを見て自分のお刺身のお皿に視線を落とした。

「浅村くん、よかったら私のお刺身食べる?」

「マジでいいの?」

「うん。私、生魚とか苦手なんだよね」

「そっか。んじゃ、遠慮なくもらうわ。サンキュ」

私が刺身の入ったお皿を渡すと、浅村くんは嬉しそうにマグロを箸で掴んで刺身醤油につけて口に入れる。
その姿は、一瞬、刺身を食べてみたいと錯覚してしまうぐらい美味しそうに食べている。

「お礼にこれやるよ」

浅村くんは、そう言って自分の箸を上下逆に持ち、ししとうの天ぷらを摘まんで私のお皿にのせた。
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