恋のはじまりは曖昧で
羨ましいってどういう意味なんだろうと聞こうとしたんだけど。
「あの、弥生さん。今の……」
「ごめん、何でもないから気にしないで。さぁ、食べよう」
それ以上の言葉を遮るように弥生さんがふわりと笑顔を見せた。
「食事中すみません。佐藤さんと金沢さん、司会の方をよろしくお願いします」
総務の人が声をかけてきた。
「お、もうそんな時間ですか。了解です」
「いっちょ、盛り上げてきますかね」
そう言うと、二人はお互いに顔を見合わせて笑う。
立ち上がりステージへと向かっていき、司会進行を始めた。
二人は盛り上げ上手で、一気に宴会場の雰囲気を掴むとカラオケ大会が始まった。
「では、トップバッターは我らが営業部の期待の新人。浅村陸くんよろしくお願いしまーす」
「へ?俺?」
急に名前を呼ばれた浅村くんは心底驚いた表情でキョロキョロする。
「やっぱ、初っ端は若者で勢いをつけたいんじゃないのか?直々のご指名だし、しっかり盛り上げてこいよ」
浅村くんの隣に座っていた田中主任がビールを飲みながら楽しそうに笑う。
「マジっすか?じゃ、ちょっと行ってきます」
こっちを向いて敬礼し立ち上がった。