恋のはじまりは曖昧で

社内で王子様系イケメンと言われる人が作業服にヘルメット……。
意外な組み合わせで思わずガン見してしまった。

その視線に気づいた田中主任は苦笑いする。

「現場ではヘルメットは必須なんだよね。落下や飛来とかの可能性があるから安全面の理由で着用が推奨されているんだよ」

「ジロジロ見てしまってすみません」

慌てて謝罪した。

「いや、いいよ。ヘルメット姿なんてあまり見慣れないだろ。しかもこれは作業用ので、バイクに乗る時に被るようなお洒落なヘルメットじゃないからね」

「でも、似合ってます!」

田中主任ほどのイケメンは、どんな格好でもイケメンな訳で。
すぐさま力を込めて言ってしまったんだけど。

「あはは、このヘルメットを似合ってると言われてもあまり喜べないかな」

「すみません!」

慌てて頭を下げる。
ここに来て謝ってばかりだ。

あぁ、ホントに私は何を言ってるんだろう。
作業用のヘルメットを似合ってるなんて言われて嬉しい訳ないじゃない。

テンパりすぎて、情けないやら申し訳ないやらで自己嫌悪に陥った。

「高瀬さんて面白い子だね。ポカンと口を開けていたと思ったらヤバいって顔になったり。クルクルと表情が変わって見てて飽きないよ」

クスクスと笑う田中主任。
< 8 / 270 >

この作品をシェア

pagetop