恋のはじまりは曖昧で
学生の時の飲み会の雰囲気とは全然違うんだもんなぁ。
「桜井さん、ちょっと」
「あ、はーい。ごめん、総務の先輩に呼ばれたから行くね」
「うん、じゃ」
薫と別れ、弥生さんの元へ行く。
「紗彩ちゃんお帰り。遅いから心配してたんだよ。そうだ、ビンゴは残念ながら当たらなかった。私もだけどね」
「そうなんですね」
ぬるくなったビールを一口飲んでいたら、田中主任が戻ってきて浅村くんの隣に座る。
森川さんとの話が終わったんだ。
特に変わった様子もなく、浅村くんと話し始めた。
私には関係ないし、余計なことだとは思っても気になってしまう。
そういえば、森川さんは戻ってきたのかな。
キョロキョロと周りを見渡してみたけど、彼女の姿はない。
間違いなく、森川さんは田中主任に告白しようとしていたんだ。
田中主任はどう返事したのかな?と思っていたら、その本人とバチッと目が合った。
ヤバい、と焦る私を余所に、田中主任は何事もなかったかのように爽やかに微笑む。
それにどう反応していいか分からず小さく頭を下げたら、隣に座っていた弥生さんが不思議そうに私を見る。
「どうしたの?急に頭なんか下げて」
「あ、いや。ちょっと眠たくなってきてウトウトしちゃいました」
そう言って眠そうな素振りを見せた。