恋のはじまりは曖昧で

次の日の朝食はバイキング形式だった。
焼きたてのクロワッサンが美味しくてつい食べ過ぎた。
お腹いっぱいになり、少し苦しかった。

ホテルを出てバスに乗り込むと、欠伸をしながら窓の外を眺めていた。
泊まりは気持ちが高揚しているせいなのか、いつも寝不足になってしまう。
今日、何度目か分からない欠伸が出て、口許を手で覆っていると浅村くんが声をかけてきた。

「高瀬。俺、田中主任と席替えてもらったから。あ、お菓子が欲しかったら遠慮なく言えよ」

そう言って行きがけに田中主任が座っていた場所に座った。

どういうこと?
突然のことで状況がのみ込めないうちに、ふわりとスパイシーな香水の匂いが鼻を擽る。

次の瞬間、田中主任が私の隣にゆっくりと腰を下ろした。

「急にごめんな。浅村、金沢とゲームの話で意気投合したらしく朝からずっとゲームの話をしてんだよ。俺には全く意味不明で……。俺の隣が金沢なんだけど、バスの中でもその話をされたら俺を挟んですることになるだろ?だったら最初から席を替わった方がいいって話になったんだ」

田中主任は苦笑いしている。

いや、ちょっと待って!
私の心の準備が全く出来てないんですけど。

出発時間になり、バスが走り出した。
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