恋のはじまりは曖昧で
注文したはずの材料が現場にまだ届いていないというクレームの電話だった。
袋セメントの注文は直接運輸部にいってるはずだから、現段階で私にはどうなっているのか分からない。
でも、そのまま無責任に『分からない』と伝える訳にはいかない。
一瞬パニックになりそうだったけど、心の中で自分を叱咤し、業務マニュアルに書いてあった電話対応の事例を思い出す。
「申し訳ございません。こちらでは状況が分かりかねますので、運輸部の方へ確認して折り返しお電話いたします」
『はぁ?そこで分からないのか?』
「申し訳ございません。こちらは本社で材料の配達は運輸部の方で行っているので」
『本社とか運輸とか知らねえよ。こっちは材料が来ないから仕事が出来なくて迷惑しているんだよ。とにかくお宅の会社のミスだろ』
「大変申し訳ございません。状況を確認して折り返しお電話いたしますので、お手数ですけど電話番号の方をお聞きしてもよろしいですか?」
電話口から聞こえる携帯番号をメモし、何度も謝罪し電話を切った。
電話の男性はかなり苛立った様子だった。
電話を切る前に『さっさとしろ!こっちは何分待っていると思ってるんだ』とすごい剣幕で文句を言われた。
怒鳴られた時は心臓が縮み上がるほどビクビクしてしまったけど、今はそんなことを考えている暇はない。
急いで運輸部へ電話をかけた。