恋のはじまりは曖昧で

「お疲れ様です、本社の高瀬です。島村さんはいらっしゃいますか?」

『お疲れ様です、島村です』

「あ、島村さん。さっき、S建材の町田さんから電話があって、N病院の現場にまだ袋セメントが届いていないと言われたんですけど」

『すみません。今日は運転手さんが一人休んでいるので、その分、配達が遅れてしまってバタバタしているんです。倉庫から現場にピストン輸送してるんですけど、N病院に行くトラックが前の現場から戻ってくる時に渋滞にはまってしまって大幅に遅れてしまったんです。先ほど材料を積んで出発したので、あと二十分ぐらいかかるかも知れないです』

「そうだったんですね。先方さんがセメントはまだか?と話されてたので」

『あー、申し訳ないです。私の方からS建材さんへ説明するので、電話番号とか聞いてますか?』

島村さんに相手の電話番号を伝え「よろしくお願いします」と言って受話器を置いた。
はぁ、と小さく息を吐いた。
島村さんは配送関係の遅延とか慣れているのか落ち着いた様子だった。
道路の混雑状況とかで材料の遅延はよくあることなんだろう。
私は完全にパニックになっていたので、ちゃんと対応できていたのか分からない。

自分が悪い訳じゃないのに怒られる。
今まで見ず知らずの人から、いきなり怒られるという機会がなかったので本当に怖かった。
< 96 / 270 >

この作品をシェア

pagetop