恋のはじまりは曖昧で
「どうした?何かトラブル?」
不意に田中主任に声を掛けられた。
多分、私が何度も“すみません”と謝っていたのが聞こえてしまったんだろう。
思いのほか、さっきの出来事にダメージを受けている自分がいた。
「あの、トラブルというか取引先から材料がまだ現場に届いてないって電話があったので、さっき運輸の方へ連絡したところです」
「そっか。その様子じゃ相手から文句でも言われた?」
顔を覗き込むように言われ、その距離の近さにドキッとする。
「少し……」
「荷物の遅延は交通渋滞とかあったらしょうがないよな。向こうもさ、そういう状況は分かってるとは思うけど、材料が届かないせいで作業が進まないからイライラして誰かにあたりたくなるんだよ。だからって理不尽に文句を言われるのは、電話を受けた高瀬さんにとっちゃいい迷惑だろうけど。まぁ、遅延はよくあることだし気にしなくていいよ」
そう言って慰めてくれた。
誰かにあたりたい、か。
きっと思い描いていた作業の流れがあったんだろう。
それが荷物の遅延で狂ってしまったんだもんね。
文句の一つでも言いたくなるのは仕方のないことだよね。
些細なことでもいつも気遣ってくれ、フォローしてくれる田中主任に私の気持ちは救われていた。