恋のはじまりは曖昧で
お昼になり、浅村くんと社員食堂に来ていた。
私に聞きたいことがあるみたいで、お昼ご飯を奢るから一緒に食べようと言ってきたのは浅村くんなのに、全く喋ろうとしない。
おかしい。いつもの浅村くんらしくない。
「ねぇ、聞きたいことっていったい何なの?」
キョロキョロと周りを確認するように見て『ちょっと』と手招きする。
上半身を前に傾け顔を近付けると、浅村くんは小声で話し出した。
「あのさ、に、西野さんて……」
「ん、西野さん?西野さんがどうしたの?」
浅村くんは何度も喋ろうとしては躊躇している。
こんな煮え切らない態度の浅村くんは初めてだ。
前屈みになっているからだんだん腰が痛くなってきた。
焦れったくなり早く喋ってくれないかなと思っていたら、浅村くんは意を決したように咳払いして口を開いた。
「か、彼氏いるのか?」
やっとのことでそう言い終えた時、顔を真っ赤に染めていた。
弥生さんに彼氏がいるか聞きたかったのね。
なるほど、と身体を元の位置に戻した。
この前、橋本さんたちと話した時に彼氏はいないって言ってたっけ。
「彼氏はいないみたいだけど、それを聞いてどうするの?」
「お前、どんだけ鈍いんだよ。そんなことを聞く理由なんて一つしかないだろ」
キレ気味に言ったかと思えば、今度は呆れたように言う。