【短】勇者の腕枕で アルマゲドン回避
学級委員長だ。
メガネを掛けていないから、わからなかった。
黒いギターケースを担いでいる。
「オデオン座から出てきたでしょ?
映画好きなんだ?」
学校の印象とは違い、人懐こい。
ところで、名前なんだっけ?
「…まあね」
あたしの視線に気付き、委員長はギターケースを抱えた。
「あ、私、この近くにある音楽教室で、ギター習ってるの。バンド始めたから、もっと上手くなりたくて」
「へえー」
「文化祭でライブやるんだ。
…そうだ。
ツインボーカルにしたいと思ってるんだけど、佐々木さん一緒にやらない?」
目をキラキラさせて言う委員長の後ろを、スーツ姿の男の人が、走り抜けて行く。
あの人、さっき、映画館のロビーで見た。
どうやら、一緒だった女の人を追いかけているみたいだった。
コケロ、と念を送ってから、委員長の方を向いて「考えておくわ」と言った。
「わっ!」
男の叫び声に振り向くと、あのスーツの人が、アタッシュケースを地べたに置いて、屈み込んでいた。
石に躓いたか何かしたらしい。