seasons.(シーズンズ)【完】
*春輝side


ランドセルを背負って学校に通うことを羨ましく思ったあの日から、これで何度目の転校になるだろうか。
片手で数えられないのは確かだ。

お陰で過去に、大衆演芸の旅一座の子だという勘違いを招いたこともある。
生憎そんな誇れる理由があって、各地を転々としているわけではない。
では俗にいう転勤族というやつなのかと訪ねられても、簡単に頷けるわけでもないのだ。

自分の襟元に触れながら思う。
新しい中学の制服が学ランで良かった、と。
学ランならどこもデザインに目立った差異が感じられないから、わざわざ買い変える必要がない。
余計な手間も出費もなくて済んだのは幸いだ。


「――長谷川ァ、聞いてるか?」
「あ、はい、すんません聞いてませんでした」
「お前なァ、転入初日からボケっとすんなよォ」


考え事に耽っていたせいで、前を歩く担任の言葉が一切耳に入っていなかった。
正直に謝罪すれば苦い笑みを浮かべる担任。
授業のない新学期早々ジャージ姿とは、分かりやすい典型的な体育教師だな。
なんてまた別なことを思いながら足を進める。
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