seasons.(シーズンズ)【完】
「やり残したことがありまして」

「やり残したこと?」

「合格祈願です」


そう微笑んだあっくんに手を引かれ、連れてこられたのは社殿。

あっくんはお賽銭箱の前に立つなり、小銭を投げて手を合わせた。

突拍子もない出来事にぼんやりしていると、


「将来の夢、ありますか?」


まっすぐ正面を見据えたままあっくんは訊ねてきた。


「……まだ具体的には」

「そうですか」

「あっくんは?」

「医者です」


あ、似合ってるかも。

白衣を着ている姿なんて容易に想像がつくもん。


「ですから良い学校を出なければならないわけでして」

「進学先の合格祈願ってことだね」

「はい」


私もゆっくり手を合わせてお祈りした。


「……大丈夫」


でも私はまだ自分の夢が定まっていなかったから、


「あっくんならきっとなれるよ」


このひとときをくれたあっくんのことを願ったよ。

自分以外の人の幸せを願えるようになったなんて、私も成長したのかな?

これも夏枝ちゃんのおかげ――、


「今度こそ帰りましょうか」


夏枝ちゃん……の?
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