seasons.(シーズンズ)【完】
「もしもし加奈?どうしたのよ」

『ごめんごめん。メールめんどくさくなっちゃって~』


まあそうだろうとは感付いてたけど。

クローゼットのなかを漁りながら会話を続行させる。


『あのさ、冬香ちゃんに連絡したら講習終わるの夕方なんだって~。だから先に二人で遊んで待つことにしない?』

「いいわね。カラオケとか?」

『それもいいね~。でさ、』


突然、加奈の声のトーンが下がった気がした。

こっちまで気を張り詰めてしまいそう。


「何よ」

『うん。あとでまた詳しく話すつもりなんだけどさ、一応先に言っておくね?』

「だから何よ」

『冬香ちゃんと進藤くんのことなんだけど……』


二人の名前を耳にし、一瞬にして体が強張った。

これはまたタイムリーな話題を出してきたものね。

ハンガーを手にしたまま硬直するあたしに、加奈は話し続ける。


『神社祭りの日ね、加奈見ちゃったんだ。夏枝が帰ってから二人もすぐ先に帰るって言ったのに、手繋いで人ごみの中歩いてるのを』


……あー、そっか。

やっぱり、そうなんだ。

やっぱり、って変よね。

まるで最初から予想していたみたい。


「とりあえず加奈んち迎えに行くわね」

『分かった。待ってるね』


通話終了のボタンを押し、静まる空間に虚無が訪れた。

今のあたしの心の中を具現化したらこんな感じなのかしらね。

笑っちゃうわ。

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