seasons.(シーズンズ)【完】
廊下は静寂に包まれていて、心なしか肌寒く感じた。

あたしは小走りで最寄のトイレを目指す。


「……あら、秋人くん?」

「芳賀さん?」


途中、予期せぬ人物に遭遇した。


「さっきは発表お疲れさまー。こんなところで何してるの?」

「芳賀さんこそ」

「あたしは格好を見ての通り」


胸を張って上半身を見せつけながらマイクを持つ仕草をすれば、


「なるほど。もうすぐフリーステージでしたね」


秋人くんは笑って納得してくれた。

けどその笑顔は無理に取り繕っているような、どこか儚げな笑顔だった。


「……秋人くん何かあったの?」

「え?」

「無理して笑ってるように見えるわよ?」


意地でも笑っていたいのか今度は苦く笑う秋人くん。


「分かりますか?」

「うん。あたしでよければ話聞くけど?」


単なる優しさとして言ったことを、


「……冬香にフラれてしまいました」


酷く後悔した。

まるで漂白剤に浸されたかのように頭が真っ白になる。
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