seasons.(シーズンズ)【完】
演奏が終了し、一帯が歓声に包まれた。

早くもあちらこちらでアンコールも掛かっている。

指笛やら「夏枝サイコォォォ!」という叫び声すら聴こえてくるほどだ。

あれだけの熱唱を前にして、すっかり魅了されたファンも少なくはないだろうな。


『すごく個人的なことで悪いんですが聞いていただけると幸いです』


すると余韻に浸る暇もなくナツが話し出した。

他のメンバーが動揺しているところから察するに、予定には無い独断行動のように見える。


『この歌はある二人を祝福するつもりで歌いました』


……内容は健気なものだった。


『あたしには恩人がいます。その人は闇に飲み込まれそうになっていたあたしに光の手を差し伸べてくれた大切な人です』


恐らく進藤のことだろう。


『あたしには友人がいます。本当に手の掛かるお馬鹿ちゃんで、でもそれが放っておけないくらい愛くるしい大切な人です』


これは……誰のことだろうか?

“ちゃん”ということは女の確率は高いが、それにしても範囲が広すぎて断定不可能だ。

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