seasons.(シーズンズ)【完】
揺れる視界。
ほなみの姿を遮るように目の前に現れた手のひらが上下している。
腕の伸びる先を目で追えば、芳賀さんが心配そうな面持ちでこちらを見ていた。


「――あ、いえ、なんでもありません。米澤さん、とてもよく似合っていますよ」


心拍数が上がる一方、僕は冷静を装いながら笑みを浮かべる。
それからちょっとやり残したことがあると曖昧な理由を告げて、賑やかな教室を出た。
あんなに人がいるところで半ば放心状態に陥るなんてらしくもない。
危うく取り乱しそうになっただなんて、口が裂けても言えませんね。

五時間目は理科だ。
担当教師の都合で実習と聞いていますし、久し振りにあの場所へ行ってみましょうか。
その前にトイレで顔を洗って、少し目を覚ました方が良いかもしれませんね。
< 70 / 410 >

この作品をシェア

pagetop