青いなにか
逢いにいくわ
ねえ、最初に断っておくけれど、私のパソコンは最近随分と調子が悪くなってしまったの。感嘆符や疑問符なんかのキーが壊れてしまって打ち込む事ができないのよ。だけど、その文字が出ないからと言って、私が疑問を抱えていないだとか、感情が昂ぶっていないだとか、思わないでね。壊れたのは、私が毎日毎日この二つのキーを叩き続けたせいなのよ。私の気持ちとしては、この画面を疑問符と感嘆符で埋め尽くしてしまいたいくらいなんだから。
ゆうくん、なぜ、あなたはいなくなってしまったの。あの時を境に、あなたは小説サイトからもツイッターからも姿を消してしまった。ブログも消されてしまった。
最初は、私の小説にあなたが感想をくれた事が始まりだったわね。
「文章が読みやすいですね。こんな女の子がいたらいいのに、と思ってしまいました」
あんなテンプレ小説に感想がつくかどうか、と思っていたから、私は、本当に嬉しかったのよ。
その時のやり取りから、私はあなたのツイッターアカウントを調べてフォローしたの。最初はどきどきしながら、「思わずフォローさせて頂きました」とか何とか言ってね。あの時は、ツイッターも始めたばかりで不安だったけれど、あなたは喜んですぐにリフォローしてくれて、それから私たちの交際が始まったのよね。
「りおなさんの考え方、すごいです、尊敬します。とても同じ歳とは思えない。僕も見習わなくちゃ」
「テニス部の活動もあるのに、執筆も早くてすごいですね」
「お疲れ様です。こんな時間まで部活頑張って、これから執筆ですか。すごいなあ」
あなたが高校生らしいピュアな受け止め方で褒めてくれる度に、私はとてもくすぐったくて、心がすごく温かくなったの。本当に本当よ。
あなたが最初、ブログで顔出ししていたので、ネットの危険性を説いて止めさせたのは私よ。覚えているでしょ。あなたの素敵な顔をどこかの誰かが見ているなんて嫌だったのよ。勿論、あの頃の写真は全て保存して、色々な加工をして使わせてもらってる。抱き枕は最高よ。外になんて出さないわ。私のこの空間の中だけで。
この小さな箱から、ネットの海に飛び込んであなたのところへ行き、あなたと手を繋いで泳ぎ、同じものを見て、同じように感じる。色んな物を見て色んな事を話したわね。私たちはあの頃、確かにひとつだった筈。違うなんて言わせないわ。
あなたが学校から帰ってくるのが待ち遠しかった。あなたがブログを更新する度に私はコメントを入れ、あなたは喜んでくれた。私のコメントの裏に込めた熱いメッセージを、あなたは確かに感じていたわ。
「ゆうくんの絵、ホントきれいよね~。小説も上手だし、リアでもきっと何でも上手なんでしょ」
「いやそんなコトないよ。りおなっちの方が絶対上手だって」
何でも上手なんでしょ、という私の言葉の意味を、勿論あなたは瞬時に悟った筈よ。そしてこんな返しをしてきた。これはつまり、私とやりたい、って意思表示でしょ。そういう年頃だもの、仕方ないわね。
だけど私はすぐには動かない。一年以上の時間をかけてゆっくりと、あなたの中に植え付けた理想の私という種を育てていったのよ。
「りおなっち。実は今度、修学旅行でりおなっちの住んでる近くに行くんだけどさ。その時、会えないかな」
あなたがダイレクトメッセージでそう言って来た時、私は最初にあなたが感想をくれた時と同じように、思わず叫んでしまったわ。遂に来た、ってね。もう自分でもどうしようもない位、あなたを愛しているから、本当に嬉しかったのよ。
勿論、私はそこに住んではいない。あなたが不用意に出す個人情報から、あなたの高校を調べ、修学旅行先をチェックして、その辺りに住んでいるように思わせておいたのよ。うまくいくか不安だったけど、その分本当に嬉しかったわ。
実際に会えば、勿論本当の私が、あなたに言ってきたようなテニス部の主将で生徒会長なんてものじゃなくって、引き籠もりでデブのアラフォーだと知ってしまうでしょう。だけど、私は確信していた。大事なのは気持ちなんだと。私は確かにネットの海を一緒に泳ぐ時、既にあなたに抱かれていた。だから後は身体も繋ぐだけ。少しくらいの嘘は、あなたに嫌われるのが怖かったから、って言えば、優しいあなたは、きっと解ってくれる筈だと確信していた。
だから、あなたが約束の場所に、ラブホテル街の近くの喫茶店に来てくれた時は、もう私たちの間に何も障壁はない、って思ったわ。最初は驚いて拒否反応を示すかも知れない。でも、多少強引にでもホテルに行って結ばれてしまえば、元々心が結ばれていたんだから、何も問題はなかった筈よ。だってあなたくらいの男の子って、そういう事に興味津々の筈でしょう。
私がりおなだと名乗った時のあなたの表情には、失望、次に怒りが見えたわ。
「嘘だったのか。タメだって言ったのも、テニス部も、みんな嘘か」
「ごめんね。だけど、ネットの活動は全部本当の私よ。私たちの交際の中じゃあ、そんな事、小さい事でしょ」
「何が小さい事だよ、このババア。交際とか言うなよ、キモいんだよ、ただのネットの会話だろうが。ていうか、よくその身体で、会おうとか思ったな」
「少しくらい年上で太ってたって、そういう体験してみたいでしょ。させてあげるって言ってるのよ」
「おまえ、頭おかしいんじゃないか。キモいって。鏡見ろよ」
「一度だけでいいのよ。後はまた、ネットで今まで通り。私は」
「今まで通りとかあり得ねぇわ」
あなたは、腕をつかみかけた私の手を振り払い、そう吐き捨てると振り向きもせずに行ってしまった。私は追いかけようとしたけれど、
「てめー、ついてきたらマジ通報すっぞ」
って言われてつい、足がすくんでしまった。私は真剣なんだから、何もやましい事なんてなかったのに、あの時私は何故足を止めてしまったんだろう。
あなたはネットのアカウントを変える事で、「りおな」を失う痛みを忘れようとしているのかしら。でも大丈夫。あなたの顔と高校から、既にあなたの住所は知っているのよ。
私の書いた恋愛小説は、実体験を元にしたんだ、って言ったけど、本当はとにかく色々読み漁って、それに私の夢を込めて書いただけなの。私は処女よ。これを言い忘れたからいけなかったのよね。そうと知ったら、あなたの気持ちを掴めると思うわ。あなたは何も心配しなくていいの。その方面はちゃんと勉強したし、あなたを絶対に気持ちよくさせてあげられるわ。「こんな女の子と恋愛してみたい」ってあなたは書いたわよね。表面上はただの若者向けの恋愛小説。だけど、その裏に詰め込んだ私の渇望を賢いあなたは読み込んだから、そう思ったのよ。それを、体験させてあげる。今から、逢いにいくわ。待っていてね。私たちの心はネットの海の中に沈め、身体は海の上へ、天へと辿り着く。そして私はあなたの子どもを身ごもるの。若いあなたに迷惑はかけないわ。結婚して、なんて言うつもりもない。そんな事には意味がないし。ただ、あなたを愛した事の結晶が欲しいの。たった一度だけで、きっとそれを手に入れる事が出来ると私には判っている。それさえあれば、もう、私に海は必要ないのだ、とも。
あなたにだけ見せていたこの非公開ブログに、私の気持ちを書いておくわ。ずっとアクセスは0のままだけど、この気持ちがあなたに伝わる事を願って。
ゆうくん、なぜ、あなたはいなくなってしまったの。あの時を境に、あなたは小説サイトからもツイッターからも姿を消してしまった。ブログも消されてしまった。
最初は、私の小説にあなたが感想をくれた事が始まりだったわね。
「文章が読みやすいですね。こんな女の子がいたらいいのに、と思ってしまいました」
あんなテンプレ小説に感想がつくかどうか、と思っていたから、私は、本当に嬉しかったのよ。
その時のやり取りから、私はあなたのツイッターアカウントを調べてフォローしたの。最初はどきどきしながら、「思わずフォローさせて頂きました」とか何とか言ってね。あの時は、ツイッターも始めたばかりで不安だったけれど、あなたは喜んですぐにリフォローしてくれて、それから私たちの交際が始まったのよね。
「りおなさんの考え方、すごいです、尊敬します。とても同じ歳とは思えない。僕も見習わなくちゃ」
「テニス部の活動もあるのに、執筆も早くてすごいですね」
「お疲れ様です。こんな時間まで部活頑張って、これから執筆ですか。すごいなあ」
あなたが高校生らしいピュアな受け止め方で褒めてくれる度に、私はとてもくすぐったくて、心がすごく温かくなったの。本当に本当よ。
あなたが最初、ブログで顔出ししていたので、ネットの危険性を説いて止めさせたのは私よ。覚えているでしょ。あなたの素敵な顔をどこかの誰かが見ているなんて嫌だったのよ。勿論、あの頃の写真は全て保存して、色々な加工をして使わせてもらってる。抱き枕は最高よ。外になんて出さないわ。私のこの空間の中だけで。
この小さな箱から、ネットの海に飛び込んであなたのところへ行き、あなたと手を繋いで泳ぎ、同じものを見て、同じように感じる。色んな物を見て色んな事を話したわね。私たちはあの頃、確かにひとつだった筈。違うなんて言わせないわ。
あなたが学校から帰ってくるのが待ち遠しかった。あなたがブログを更新する度に私はコメントを入れ、あなたは喜んでくれた。私のコメントの裏に込めた熱いメッセージを、あなたは確かに感じていたわ。
「ゆうくんの絵、ホントきれいよね~。小説も上手だし、リアでもきっと何でも上手なんでしょ」
「いやそんなコトないよ。りおなっちの方が絶対上手だって」
何でも上手なんでしょ、という私の言葉の意味を、勿論あなたは瞬時に悟った筈よ。そしてこんな返しをしてきた。これはつまり、私とやりたい、って意思表示でしょ。そういう年頃だもの、仕方ないわね。
だけど私はすぐには動かない。一年以上の時間をかけてゆっくりと、あなたの中に植え付けた理想の私という種を育てていったのよ。
「りおなっち。実は今度、修学旅行でりおなっちの住んでる近くに行くんだけどさ。その時、会えないかな」
あなたがダイレクトメッセージでそう言って来た時、私は最初にあなたが感想をくれた時と同じように、思わず叫んでしまったわ。遂に来た、ってね。もう自分でもどうしようもない位、あなたを愛しているから、本当に嬉しかったのよ。
勿論、私はそこに住んではいない。あなたが不用意に出す個人情報から、あなたの高校を調べ、修学旅行先をチェックして、その辺りに住んでいるように思わせておいたのよ。うまくいくか不安だったけど、その分本当に嬉しかったわ。
実際に会えば、勿論本当の私が、あなたに言ってきたようなテニス部の主将で生徒会長なんてものじゃなくって、引き籠もりでデブのアラフォーだと知ってしまうでしょう。だけど、私は確信していた。大事なのは気持ちなんだと。私は確かにネットの海を一緒に泳ぐ時、既にあなたに抱かれていた。だから後は身体も繋ぐだけ。少しくらいの嘘は、あなたに嫌われるのが怖かったから、って言えば、優しいあなたは、きっと解ってくれる筈だと確信していた。
だから、あなたが約束の場所に、ラブホテル街の近くの喫茶店に来てくれた時は、もう私たちの間に何も障壁はない、って思ったわ。最初は驚いて拒否反応を示すかも知れない。でも、多少強引にでもホテルに行って結ばれてしまえば、元々心が結ばれていたんだから、何も問題はなかった筈よ。だってあなたくらいの男の子って、そういう事に興味津々の筈でしょう。
私がりおなだと名乗った時のあなたの表情には、失望、次に怒りが見えたわ。
「嘘だったのか。タメだって言ったのも、テニス部も、みんな嘘か」
「ごめんね。だけど、ネットの活動は全部本当の私よ。私たちの交際の中じゃあ、そんな事、小さい事でしょ」
「何が小さい事だよ、このババア。交際とか言うなよ、キモいんだよ、ただのネットの会話だろうが。ていうか、よくその身体で、会おうとか思ったな」
「少しくらい年上で太ってたって、そういう体験してみたいでしょ。させてあげるって言ってるのよ」
「おまえ、頭おかしいんじゃないか。キモいって。鏡見ろよ」
「一度だけでいいのよ。後はまた、ネットで今まで通り。私は」
「今まで通りとかあり得ねぇわ」
あなたは、腕をつかみかけた私の手を振り払い、そう吐き捨てると振り向きもせずに行ってしまった。私は追いかけようとしたけれど、
「てめー、ついてきたらマジ通報すっぞ」
って言われてつい、足がすくんでしまった。私は真剣なんだから、何もやましい事なんてなかったのに、あの時私は何故足を止めてしまったんだろう。
あなたはネットのアカウントを変える事で、「りおな」を失う痛みを忘れようとしているのかしら。でも大丈夫。あなたの顔と高校から、既にあなたの住所は知っているのよ。
私の書いた恋愛小説は、実体験を元にしたんだ、って言ったけど、本当はとにかく色々読み漁って、それに私の夢を込めて書いただけなの。私は処女よ。これを言い忘れたからいけなかったのよね。そうと知ったら、あなたの気持ちを掴めると思うわ。あなたは何も心配しなくていいの。その方面はちゃんと勉強したし、あなたを絶対に気持ちよくさせてあげられるわ。「こんな女の子と恋愛してみたい」ってあなたは書いたわよね。表面上はただの若者向けの恋愛小説。だけど、その裏に詰め込んだ私の渇望を賢いあなたは読み込んだから、そう思ったのよ。それを、体験させてあげる。今から、逢いにいくわ。待っていてね。私たちの心はネットの海の中に沈め、身体は海の上へ、天へと辿り着く。そして私はあなたの子どもを身ごもるの。若いあなたに迷惑はかけないわ。結婚して、なんて言うつもりもない。そんな事には意味がないし。ただ、あなたを愛した事の結晶が欲しいの。たった一度だけで、きっとそれを手に入れる事が出来ると私には判っている。それさえあれば、もう、私に海は必要ないのだ、とも。
あなたにだけ見せていたこの非公開ブログに、私の気持ちを書いておくわ。ずっとアクセスは0のままだけど、この気持ちがあなたに伝わる事を願って。