出来が悪いキノコ【短】
私はその松の根元に近づき、持っていたナイフをキノコの軸にいれる。ずっと前から食べているこのキノコ。去年もその前の年もこうやって収穫したっけ。
でも今年は、毎年生えるキノコじゃない。違う。
種類は多分同じだと思う。柄が一緒だから。
よく調べもしないでキノコを食べるのは自殺行為だが、それで死ぬ運命も悪くない。大好きだった母の元に行けるのだから。
私は根元から切り取ったキノコを撫でた。やはり違う。
何が違うかって、ツヤの度合いと大きさが違う。毎年大きくてふっくらとしたカサをつけるこの庭のキノコ。ツヤが素晴らしく見た目で美味しさがわかるようなキノコ。毎年そうだった。
しかし今年のキノコ、なんというか、出来が悪い。
しわしわでツヤなんか無く、くたっとしていて今にも折れてしまいそう。まるで去年でキノコの時代が終わったとでも言うように。
まあいいや。食べられることには変わりない。
私はそのしわしわのキノコを何個か摘み、手に抱えた。そして玄関へと向かい、扉を開けた。