君と夢見るエクスプレス
美波が言ってるのは、間違いなく阿藤さんのこと。二人きりでの外出は嬉しいのに、阿藤さんからのアプローチがないから苛立っているんだ。
でもね、姫野さんみたいな言い方されても正直なところ困るんだよ?
と思ったけど、それは言うまい。
「だってさ、仕事中じゃない。二人きりとはいえ、それはダメでしょう?」
諭すように言ったら、美波は大きな溜め息をひとつ。がっかりしたように、肩を落として目を伏せる。
「そう? それなら、いつだったらいいの? 私からなんて誘えないでしょう?」
「うん、確かに。でもチャンスは……」
「あると思う? 私は外回りしてる時が、最大のチャンスだと思うんだけどなあ……」
不満たらたらな美波には、やっぱり姫野さんのことなんて言えない。
「今日早く帰れそうなら、食事行こうよ?」
「でも、陽香里は忙しいでしょ? 今日も残業じゃないの?」
上手く切り返したつもりなのに、美波に言い返されてしまった。
そう、美波の言う通り。
早く帰れる確信はない。
だけど、美波が沈んでいくのを引き止めたかったんだから。