君と夢見るエクスプレス

「松浦さん、悪いけど、これ焼いてきてくれる? 人数分お願い」



ぼーっとしていたら、いきなり姫野さんが怖い顔で振り向いた。



目が合うと一気に表情が緩んで、いつもの顔。ほっとする私に、資料の束を手渡す。



「はい、カラーでいいですか?」
「うん、カラーでお願い。ごめんね」
「わかりました、すぐに」



資料を受け取って、急いで立ち上がる。
だけど不意打ちを食らって、頭の回転がついてこないまま。



でも少しだけ、ラッキーだと思った。



これを焼いている間に、美波に連絡できることに気付いたから。そういうことには頭が回るんだな、と自分で感心。



事務所に戻ってコピー機にセットして、すぐに自席へと走る。



電話の受話器を取り上げた途端に、定時のチャイムが鳴り始めたけど気にしない。聴き流しながら、美波の内線番号を押した。



二回のコールを聞いた後、すぐに美波の声に変わった。本当に、私からの連絡を待っていてくれたのだろうか。



「陽香里? お疲れ様、どう?」



私より早く話し出したのは美波。
尚更に、待たせてしまったのかと感じされられて胸が痛い。


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