君と夢見るエクスプレス
話し出すのには、僅かに勇気が必要だった。受話器を持ったのと反対側の手を握り締めて、言葉を絞り出す。
「ごめん、まだ会議中。資料を焼きに戻ってきて……、今日は行けないの」
「やっぱり。いいよいいよ、また今度行こう」
美波は、さらっと答えた。
あくまで軽く、気にするなと。
だけど私の言葉を聞いた後、小さく息を吐くのが聴こえてしまった。
やっぱり、ヘコむよ……
「うん、本当にごめんね」
「全然気にしないで、仕事が落ち着いたらでいいから、ね」
気にしないと言いつつも、美波の言葉は強がっている風にも聴こえてしまう。
帰れる確信なんてなかったのに、何でいい加減な約束をしてしまったんだろう。申し訳なさでいっぱいになってくる。
「美波、土日は? 何か予定ある?」
咄嗟に出てきた言葉に、驚いたのは私自身。
だけど、名案だと思った。
今日は金曜日、明日と明後日は休日。だったら明日か明後日に、ゆっくりと出かけてもいいじゃない。
これまでだって、美波とは休日に出かけることがあったんだから。
ただ残念なことは、今すぐ美波の塞ぎこんだ思いを聴いてあげることができないこと。