君と夢見るエクスプレス

「土日? うん、いいけど? 陽香里は?」
「もちろん私は大丈夫、じゃあ明日、昼からでいい?」
「うん、ランチ行こうか?」
「そうしよう、また連絡するよ」



答えると同時に、隣に立っている影に気づいた。



受話器を持ったまま振り向くと、笠子主任が私を見下ろしている。手にはコピーしていた資料を抱えて、いつもと変わらない穏やかな顔をして。



ヤバいヤバい、ちょっと話し過ぎた?
問い掛けたい気持ちを堪えて、小さく頭を下げた。



すると笠子主任は、口角を上げて頷く。



「陽香里? どうしたの?」



受話器の向こうから、美波の心配そうな声が響いてくる。



「あ、ごめん。そろそろ戻らなきゃいけないから、お疲れ様」
「うん、お疲れ。ほどほどに頑張れ」
「ありがとう」



笠子主任に見られていることを思いきり意識しながら、早口で告げて受話器を置いた。
いや、早く切らなければいけないような雰囲気だったから仕方なく。



「これ、松浦さんが焼いてた資料だよね?」
「はい、そうです。すみませんでした」



怒られているわけじゃないのに、声が上擦ってしまいそう。





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