君と夢見るエクスプレス
「うん、そんなことは無いよ」
さらりと答えると、美波は頬杖をついて深い溜め息。
疑い深い目で私を見据えて、
「もしも万が一、誘われたとしても絶対にやめときなよ」
ぴしゃりと語気を強めて喝を入れた。
当たり前だ。
人の道に外れるようなこと、許されるはずはない。決してするべきことでもないし、少しでも考えてしまった自分が情けない。
「わかってるよ、ただの憧れの上司だから」
「その憧れが危険だわ……、ただの上司だよ、わかってる?」
「うん、わかってる。ありがとう」
怖い顔をする美波を見ていたら、私は本当に危なかったのかもしれないと感じさせられる。
もし笠子主任が本気だったら……
今頃、どうなっていたんだろう。
そう思うと、単なる勘違いで本当によかったと心から思う。
「ところで姫野さんとは? 本当に何にもないの?」
「はい?」
突然逸れた話の流れがおかしくて、聞き返した声が裏返ってしまった。
これはマズい。
私の勘違い話から、姫野さんへと話題がシフトしつつある。
今日は、美波の悩み事を聞くつもりだったはずなのに。