君と夢見るエクスプレス
「私、そんなこと全然覚えてないよ。それに、橘さんの進路って?」
「大学卒業後、どうしようか迷ってたんだ。以前から留学したいと思ってたけど、決心できなくて……、踏み出せたのは君のおかげだよ」
「そう……、そんなに留学したかったんだ」
答えながらも疑問だった。
彼の言ってることが事実なのか、本当にわからない。この場で、とって付けただけかもしれない。
当時、私たちには何の接点もなかった。ただ、同じ場所にいただけ。そんな私が、彼の進路に本当に影響力を与えていたなんて信じられない。
信じられると思う?
しかも肝心な答えは、いつの間にか置き去りにされてしまってる。早く本題を元に戻さなければ。私までおかしくなりそうだ。
「ありがとう、松浦さんに会えたのは、やっぱり縁だよ」
彼の笑顔に、さらに胸が熱くなる。
確かに自分の中で生まれ始めた気持ちだけど、正面から受け止めてはいけないような気がして。雰囲気を立ち切りたくて、ひとつ咳払い。
「うまく話を逸らしたけど、ドアを間違えた理由は何だったの?」
「ああ、それは……、松浦さんがそこに居たから」
再び彼の表情に、焦りの色が蘇る。
また、私が居たって言うの?