君と夢見るエクスプレス
「してないけど、そこに君が居たから……」
弱気な声で反論するけど、まだ私のせいにしてる。本当に、男として恥ずかしくないのだろうか。
一度は感じてしまった揺らぎからの失望は、思いのほか大きい。
もう、こんなところに居てはいけない気がしてきた。
バッグから取り出した財布から、数枚のお札をテーブルに叩きつけた。思ったよりも音が響いてしまって、彼が慌てたように振り向く。
きっと睨んで立ち上がり、バッグを握り締めた。帰る気満々を見せつけるように。
「勝手に反対のドアに立ったのは、橘さんでしょう? 私は、ただ見てただけですから」
言い放って、個室の障子へと手を伸ばす。その手を彼が掴んで、引き留める。
「待って、違うんだ」
「何が違うの? まだ言い訳するつもり?」
掴んだ彼の手を思いっきり振り解こうとしたら、反対に引き寄せられた。ものすごく強い力で、抵抗もできない。反動でバッグが手から離れて、床に落ちる。
同時に、私は彼の腕の中に収まっていた。
「違う、言い訳じゃない」
彼の声が振動となって、触れた体から伝わってくる。