君と夢見るエクスプレス
ふいに伸びた彼の手が、髪を撫でつけた。彼は目を細めた優しい顔で、頬に唇を寄せる。
「ごめん、松浦さんとこうして居たい」
囁くような声が耳に触れて、胸の奥が揺らいでしまう。私ももう少しだけ、このままで居たいと思ってしまったから余計に。
だけど、まだ素直に認めてしまっていい気持ちなのかわからない。せめて意思を示さねばと体を起こそうとしたら、彼に引き留められた。
「あの頃の松浦さんの笑顔を、もう一度、俺が取り戻したいんだ」
あの頃と今の私は、明らかに違うという意味。
原因はわかってる。本意じゃない仕事に対する納得できない思い、夢と現実を受け入れられない葛藤、他にも様々な気持ち。
そのすべてを、彼が知っているとは思えない。
彼が知っているのは、あの頃と今の私が違うこと。あの頃の輝きが、今の私には無いこと。
「本当……に?」
懸命に息を整えながら、彼を見上げた。緩やかな弧を描く目元に吸い寄せられるように、口角がゆるりと上がってく。
「もちろん、俺の傍に居てほしい」
ぎゅうっと抱き寄せてくれる彼の力強さに、込み上げてくる安心感。少しだけなら身を委ねてみてもいいかもしれない。そう思ってしまった。