君と夢見るエクスプレス
「今日は早く目が覚めたんだ。足痛いの? 後ろから見てて辛そうだったから」
と言って、彼は私の足の後ろ側を心配そうに見下ろす。
パンプスで擦れた踵のことだ。
彼が真後ろの、しかも庇っているのがわかるほど傍を歩いていたなんて。ずっと見られていたこと、気づかなかったことが恥ずかしい。
「いいえ、大丈夫。もうすぐ電車来るから」
一応スカートなんだから、じろじろ見ないでよ。彼の視線を逸らそうと、電車が来る方を大袈裟に振り向いた。
ちょうどホームに、電車の到着を告げるメロディが流れ始める。
「先週、ここで陽香里を見つけた時は声をかけられなかったのに、こうして一緒に出社できるなんて嬉しいよ」
彼が、私の顔を覗き込む。
先週も同じ電車。同じホームに居たなんて私は全然気づかなかったけど、彼は私の存在に気づいていたんだ。
あの時、鉄道フェスティバルでも。
ひどい自惚だな……と思いながらも、嬉しい気持ちに代わりはない。
だからこそ、感じてしまう物足りなさ。
もう一歩、踏み込んでくれてもいいのに。