君と夢見るエクスプレス

室長は五十代になったばかりで、父と年齢は変わらない。田舎にいる父は電機会社の現場職で工場長をしている。社内の飲み会は多いけど、社外の人との付き合いは聞いたことがない。



事務屋と現場屋との違いなのだろうか。
などと考えながら、私は阪井室長と笠子主任のやり取りを聞いていた。
半ば他人事のように。



ところが、ドアが閉まるのと同時に気がついた。
私に注がれる笠子主任の視線。何か問いかけたそうに口元が揺らいでいる。



そんなに見ないでほしい。
本気で勘違いしてしまいそうになるから。



笠子主任の優しい眼差しが、痛くて痛くて堪らなくなる。



「松浦さんも、今夜参加してもらえるかな? 急で申し訳ないけど、室長の都合で今夜歓迎会を開くことになったから」
「え? 今日ですか?」



ふいに投げかけられた笠子主任の声が、私を現実に呼び戻す。危うく裏返りそうになった声を誤魔化そうとして、一度だけ咳をして照れ隠し。



「うん、橘君の業務の都合もあるから……、どうしても都合が悪いなら仕方ないけど」



と言った笠子主任の隣で、彼が私を見据えている。

< 18 / 257 >

この作品をシェア

pagetop