君と夢見るエクスプレス
会議室に彼と二人きり。
顔なんて、まともに見られるはずはない。席に着いたら彼の顔が真ん前に見えてしまうから、座ることもできない。
立って、彼に背を向けたまま。
ドアのすぐ横の壁にある空調ボタンを無意味にいじってみたり。電話台の電話帳を揃え直してみたり。
お願いだから、誰か来て。
姫野さんでもいいから、早く戻ってきてほしい。
「松浦さん」
背後からの声に、体がびくんと跳ね上がった。だって思っていたよりも、声が至近距離から聴こえたから。
いつの間に、彼は席を立ったのだろう。
しかも、彼は私の真後ろにいるらしい。
動くに動けない。
だけど、こんな距離で無視するわけにもいかない。
振り向くに振り向けない私に、再び彼が呼びかける。
「ねえ、松浦さん?」
さっきよりも、さらに声が近くで聴こえる。ちょうど斜め後ろぐらいから、まるで顔を覗き込もうとしているみたいに。
いやいや、そんなわけない。
私が動揺してるから、そんな風に聴こえただけだ。
必死に言い聞かせて、恐る恐る振り返る。