君と夢見るエクスプレス
体が反転する寸前、頬をかすめて過る黒い影。真っ直ぐ壁を貫くような勢いに圧倒されて、ぐらりと足元がふらつく。
それが腕だと気づいた時には、背中が壁に触れていた。
後頭部には柔らかな感触。
そっと辿っていくと、スーツを纏った腕が視界の右側に真っ直ぐ映っている。
「危ねえよ、呼んだらすぐに返事してくれる?」
私の後頭部を支えたまま、くすっと彼が笑う。彼の顔は私の真ん前、およそ二十センチほどの距離に。近すぎてヤバいと思うのだけど、後退ることもできない。
っていうか、どうして彼にこんなことをされなきゃいけないのか。返事しろとかエラそうだし、ムカついてきた。
「何するんですか、退いてください」
語気を強めて言ったら、彼の表情がほんの少しだけ揺らいだ。驚いたと言いたげに、口を尖らせて。目元が緩やかに弧を描く。
まるで舐めきった顔。
退く気配はなさそうだ。
だったら、力尽くで。
両手で力いっぱい体を押し返したけど、全く動きそうもない。
必死になる私の頭上から、
「松浦さんこそ、何してんの?」
と彼の声が降ってきた。
きっと睨んだら、余裕の笑み。