君と夢見るエクスプレス
「このことは絶対に口外しないこと」
笠子主任の〆の言葉で、ようやく解放された。
不機嫌な姫野さんは事務所に戻ってからも、溜め息ばかり吐いてる。
先に帰りたいけれど、どうしようかと迷いつつメールをチェックする。
ちょうど今から一時間半前、定時のチャイムが鳴る直前に届いた美波からのメールを発見。『一緒に帰れる?』という内容に、さらにショック。
もう美波は、とうに帰ってしまってるだろう。きっと私の携帯電話にもメールをしてくれているはず。
すぐに『ごめんね』と連絡したいのに、今日に限って携帯電話は家に置いてきてしまった。
本当に馬鹿だなあ……
どうして、携帯電話を置いてきてしまったんだろう。
自分のつまらない意地で、判断してしまったことが悔やまれる。
情けなさに耐えきれず息を吐いたら、思いのほか大きくなってしまった。隣りの姫野さんが、驚いて振り向くほど。
「松浦さん、先に帰りなよ。僕はまだ業務が残ってるから」
優しく笑ってくれる姫野さんの気遣いが痛いけど、私は先に退社することを決めた。