君と夢見るエクスプレス
「もしもし、陽香里?」
彼の声が聴こえる。
留守電じゃなくて、本物の彼の声。
「橘さん?」
「うん、おかえり、陽香里。やっと声が聴けた」
ちゃんと答えてくれる彼の声。じんとした温もりが、体に染み込んでいく。
長い間会ってなかったわけじゃないのに、こんなにも懐かしさが込み上げてくるなんて。恥ずかしさと照れ臭さも入り混じっているけど、根底にあるのは確かに嬉しい気持ち。
ようやく彼の声を聴くことができたんだ。
でも、『おかえり』って何?
どうして、私が家に帰ったってわかるの?
「今日はごめん、ちょっとだけ外に出れる?」
「うん、どこ?」
「窓開けて、手を振るから」
言われた通り窓を開け、ベランダから覗いた。アパートに沿った歩道の街灯の下、照らし出された彼がいる。
いつも思い浮かべるのと同じ。白い半袖シャツに深い灰色のパンツを穿いた彼。手を振りながら制帽を正す仕草に、胸の奥から熱が込み上げる。