君と夢見るエクスプレス
「ったく……、困った子だなあ」
彼は、ゆるりと口角を上げた。
身を乗り出すようにして、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「やっ、やめてよ……本気で怒るよ?」
うんと体を仰け反らしたけど、無駄な抵抗にしかならない。後ろに重心が傾いて、不安定になったヒールがふるふると震えてる。
ついに鼻先が触れ合って、唇から漏れる息遣い。ほんのりと温かくて、微かなミントの香り。
もうダメだ……
覚悟を決めて、ぎゅっと目を閉じた。
ひと息おいた後、何事もなく鼻先が離れてく。
「ビビってんの? かわいい」
くっと笑いだした彼の声に拍子抜け。強張っていた体の力が抜けていく。目を開けた瞬間、唇めがけてふっと息を吹きかけられた。
もしかして、私のことをからかってたの?
ふつふつと怒りがこみ上げてくる。
「何なの? どういうつもり?」
怒りに任せてジタバタしてみたけど、やっぱり腕は解けない。再び顔を近づけてくる彼を、きっと睨んだ。
「今朝のこと、絶対に口外しないと約束してもらえる?」
何なの、結局はそれ?
だったら、しおらしくなるのは彼の方じゃない。