君と夢見るエクスプレス
近隣市の鉄道会社では女性乗務員を採用しているけれど、私の勤める港陽鉄道では女性の乗務員はいない。
乗務員だけでなく、駅員や助役や駅長にも女性はいない。運輸部の輸送計画課に配属されている女性が何人かいると聞いたことはあるけれど。
基本的に早朝や夜間の勤務がある部署に、女性は配属されないことになっている。
小さい頃から、電車の運転手に憧れていた。鉄道会社に就職したくて何社も採用試験を受けたけど、唯一採用されたのが港陽鉄道だった。
まずは採用されることを優先したため、採用試験で『運転士になりたい』とは一言も口にせず。きっといつかは道が拓けると思っていたけど、簡単に拓けるものではないらしい。
「それにね、憧れに留めておいた方がいいことだってあるんだよ。実際に泊まり勤務とかすることになったら、すごく大変だと思うよ」
「うん、わかってる。でもね、夢だったから」
「陽香里の関わってるプロジェクトの方が夢があると思うよ、あの更地から何かを創ろうとしているんだよ?」
目を輝かせる美波には、『夢』という言葉が似合っている。美波は希望の部署に配属されたからだろう。