君と夢見るエクスプレス
彼がグラスから手を離して、私の方へと体を傾ける。左腕を少し後ろに回して、右手が私へと伸びてきて……
ちょっと待って、こんな所で?
あたふたしてる私の前を右手が掠めていく。
「それ、食ってやろうか?」
と言って、彼は私の前に置いてあるお皿を取り上げた。お皿には、最後に食べようと思って残していた海老サラダ。まだ半分残してあるのに。
姫野さんが『私だけに』と、海老コロッケの他に頼んでくれたものなのに。
言いたいのに言葉が出てこない。
そうこうしてるうちに、彼は海老サラダを頬張ってる。
『食ってやろうか?』って、そういうことだったんだ……
変なことを妄想してしまっていた自分が恥ずかしくて、何にも言えない。
「あっ、それは……」
姫野さんが戻ってきて、声を上げる。驚いた顔をした姫野さんの手には領収書。支払いのため席を外していたらしい。
「ごちそうさまでした」
姫野さんが席に着く前に、お皿は空っぽに。橘さんは私のグラスを取り上げて、烏龍茶も飲み干してしまった。