君と夢見るエクスプレス
ぼんやりとしていたら、向かい側のシートの一番端に目が留まる。
昨日、そこに座っていた橘さんの姿がないのは当たり前。宴会で『明日は非番』と言っていたし、出社は週に一日程度と言っていたから。次に彼が出社するのは、来週の月曜日の予定だと聞いている。
だけど、もう車内で彼を見ることはないかもしれない。
昨日あんなに恥ずかしい思いをしたんだから。同じ時間の電車の、同じ車両に乗ることなんてできないはずだ。
同じ電車でも、他の車両だったら乗ることができる?
いや、私だったら絶対に無理。
もう二度と、同じ時間の電車には乗らないだろう。
あんな恥ずかしい思いをしたんだ。見ていた人に、どんな形であれ少しでも姿を見られるなんて耐えられない。もし同じ駅から乗る人だったら、もっと嫌だ。
彼って……
そもそも橘さんは、どこから乗ってきたんだろう。
いつの間にか、向かいのシートのあの席に座っていた感じ。私はずっと本を読んでいたし、混み合った車内では乗降する人の数も顔なんて確認することはできない。