君と夢見るエクスプレス
「おはよう、今日は非番って言ってなかった?」
姫野さんの声がほんの少しだけ、嫌味っぽく聴こえたのは私だけではないはず。そんなつもりはないのだろうけど、小さな棘を含んだ感覚。
やっぱり、橘さんのことを気に入らないことがよくわかる。
だけど、橘さんにはほとんど通じていないらしい。
「非番だと思っていたら日勤だったんです。危うく寝過ごすところでした」
制帽を目深に被り直しながら、笑って見せる。
「気をつけろよ、それより制服似合ってるじゃないか」
「ありがとうございます、僕も気に入っているんですよ、来週これ着て行ってもいいですか?」
「ああ、いいんじゃない。楽しみにしてるよ」
二人は普通に会話しているようだけど、何だかぎこちなく感じられてしまう。この空気感を、早くどうにかしてほしい。
と思い始めた頃、橘さんの視線が逸れた。
「どうされました?」
澄んだ声を姫野さんと私の遥か後方へと投げ掛けて、橘さんが歩き出す。颯爽とした足取りで、私たちを残して。