君と夢見るエクスプレス
電車を利用しても臨海地区へはバス路線を使わなければ、歩いて行くには遠過ぎる。バスの本数は通勤時間帯の朝夕には集中しているけれど、日中は少なからず待たなければならない。
「ビジネスで利用する人は待つのが嫌い……だからですね」
「そうだな、せっかちだ。ここは利用客とタクシーの均衡が崩れてるんだ」
「タクシーが多すぎる? ということですか?」
「いや、利用客が少ない。このホテルの立地は悪くないのに利用客が選ばないから」
歩く速度を緩めて、ホテルを見上げた。
交差点からほど近い入り口から緩やかな坂道を上った二階にホテルのエントランス。ガラス張りの向こうには暖色系の灯りが見えて、ほどよい高級感。
五階までの下層階はどっしりとした幅の広い造り、上層階は綺麗な四角い形の客室階が空に向かって延びている。岩肌のような厚みを感じさせる壁に、奥まった黒い窓枠が重厚な印象。
外観的には決して安っぽくは見えないし、市内でもハイクラスのホテルだ。それに講演会やパーティ、もちろん結婚式などに利用されることも多い。
だけど、今こうして周辺を見ている限りではビジネスホテルっぽい雰囲気は拭えない。