君と夢見るエクスプレス
「そうだろ? 気軽に入れる居酒屋の方がいいに決まってる」
「でも、ここはビジネスホテルじゃないですよね?」
「昔は球場で野球やコンサートがあったし、港やクルージングや街の散策、流嘉(るか)山方面への観光客が多かったけどな」
「観光客は見かけませんね、どちらかというと霞駅の方で見ることが多いかも」
「そっちに流れてるのは確かだな。だって見てみろよ、ここには何にもないんだから」
ぐるりと見回して、姫野さんが笑う。
本当に何にもない。
ホテルを離れて歩き続けているけれど、視界に映る景色にあまり変化はない。
視界の大半を占めるのは幹線道路のアスファルトの色と、高いフェンスの緑色とフェンスの向こうに茂った雑草の緑色。
延々と続くフェンスが途切れた先の空き地には、無料古紙回収コンテナが存在感を放っている。
球場が営業していた頃には、この空き地にコンビニがあったらしい。球場が取り壊された後、しばらくしてコンビニも廃業したのだと聞いたことがある。