恋に落ちて。
***
「おー片桐、ちょうどよかった。これ、職員室まで運んでくれないか」
「えっ」
廊下を歩いているとすれ違い際に担任の先生に声をかけられた。40代そこそこで、情に厚い先生だという噂は軽く耳に入っている。
そんな先生が持っているのは大きなダンボール。とても重そうで、先生も軽く眉間にしわを寄せている。
「じゃ、頼んだぞ」
「え、ちょっ、」
ずっしりと腕にかかる重み。
(重ッ)
先生は私にダンボールを押し付けるように抱えさせて足早にこの場を立ち去った。
なんとも最悪な先生である。
私は腕の中にあるダンボールをを睨みつける。
はぁ。
と小さくため息をついて歩き始めた。
ダンボールは地味に高さがあって私の視界を遮る。前が見えない。
階段の段差なんて見えないし手すりはつかめるはずがない。
ましてや、前が見えないのだから、階段が後何段あるのかなんてわからない。
一段一段慎重に下りていくが、やはり怖い。
(今日の運勢は最悪に違いない…)
そうやって今日の自分の運勢を激しく呪いながら、階段をゆっくりと下りていく。