恋に落ちて。
「わ、…綺麗」
思わず口元を手で押さえて華が咲く夜空を見上げる。
そこには、大きな華。
花火が、夜空一面に咲くようにして広がっていた。
「来い」
「えっ」
少年が私の手を引っ張り、石垣から立ち上がらせる。そうしてそのまま走り出した。
どこに向かっているのか、まったくわからない。下駄のせいで足がもつれそうになるも、少年の走るスピードは止まるどころか、どんどん速くなっていく。
バーン。
華が咲く。
花火の音が、だんだんと遠のいている気がする。
「ねぇ、どっ、どこ行くの!」
走ってるせいで息が途切れ途切れになる。下駄で足は痛いし、浴衣でうまく走ることはできないし。もううんざりだった。
だけど、涙はいつの間にか止まっていた。
そうして少年が止まったのは、さっきの石垣からだいぶ走ったところだった。