恋に落ちて。
振り返るとそこには息を切らした、紛れもない私の兄がいた。たった一人の、私の家族。
「亜美」
私の名前を静かに呼ぶ兄の右耳たぶには、私の左耳についているのと同じの紅い雫のピアスがついている。
(穴、開けたのか)
ついさっきまで嫌がっていた兄なのに。
「帰るぞ」
私の瞳を真っ直ぐ見てそう一言告げた兄、片桐諒(カタギリリョウ)は私に背を向け歩き出した。
そのさみしそうな背中を見たら、また、涙が出てきそうになる。私は溢れだしそうな涙を堪えて、少年を見た。
少年は、眉をハの字に下げて私を見ていた。
「ありがとう」
私は少年にそう一言呟くように言って、兄の背を追った。