恋に落ちて。

恋の始まりを知らぬまま








そしてまた、夏がやってくる。




***





朝カーテンを開ければ、眩しい太陽の光が部屋の中に差し込む。
雲一つない空。即(スナワ)ち、晴天。



制服に腕をとおす。ネクタイの結び方は、高校に入ってから覚えた。だからと言うのはおかしいのかもしれないが、まだ覚束無(オボツカナ)い手つきでもネクタイを結ぼうと、鏡の前に立つ。



胸まで伸びた黒い髪はストレートにおろして、ヘアコロンを少しかける。


左耳には、紅いピアス。入学初日から先生たちに何度か注意されたけど、もう諦めたのか、それとも呆れたのか。私のことは放っておくようになった。




身支度を終えて部屋を出る。




階段をおりると、なにやらキッチンの方から香ばしい香りがする。

リビングへと入るドアを開けると、




「おはよう亜美ちゃん」




私の名前を他人行儀のように呼ぶ、父。
その呼び方にはもう、慣れたけど。




「おはよう亜美ちゃん、もうご飯できてるわよ」




キッチンにたって私に微笑む母。




「おはよう。お父さん、お母さん」



私は2人に挨拶をして、4人分の朝食が用意された席に座る。


目玉焼きにお味噌汁、ご飯にちょっとしたサラダ。これは朝は和食しか好まない兄、諒への配慮でもある。


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