【短編】よわ虫kiss
今なんて?
…引っ越しとか言った?
ギターとか阪神とかじゃなくて?
引っ越しって…引っ越し?
トラックとかでする…引っ越し?
あの…キャラクターの冷温庫がもらえるとかいう…?
あの引っ越し…?
「ほら、おばあちゃんいるだろ。
おじいちゃんが亡くなって1年経つし、もうおばあちゃんも歳だからそろそろ1人暮らしも心配でな…
大阪のおばあちゃんの家に引っ越そうかと思うんだ」
「……」
言葉がでなかった。
停止してしまった頭を必死で動かそうとしたけど…失敗した。
だって…引っ越しって…
ここから…出て行くって事でしょ…?
…急すぎる。
「おばあちゃんちって…あたし転校すんの?」
あたしがやっと搾り出した言葉に、お父さんは少し難しい顔を浮かべた。
お母さんがカチャカチャと洗い物をする音が聞こえてくるけど、そんなのまったく気にならない。
テレビのクイズ番組の司会者の無駄に高いテンションも、マンションの上の階の子供が走り回る音も、いつもなら気になる音が、何もかもが耳を抜けていく。
そんな中で、お父さんの声だけを器用に頭に留まらせる。
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