【短編】よわ虫kiss
1..One Out


「んな落ち込むなよ。

夏行けるって」



季節は春。


部活が終わって部員も監督も帰ったグランドに、素振りの音が聞こえる。


緑色のネットに囲まれたグランドは、1年生部員によってキレイにトンボがかけらている。


ボール磨きをするあたしの横で呑気な事を言ってくるのは、幼なじみ兼、彼氏の大和。


へらっとした顔が、あたしの苛立ちとも憂鬱とも取れる気持ちを煽ってきてやけにイライラする。


2人きりのグランドには、大和の振るバットがビュンビュンと空を切る音だけが静かに響く。


いつの間にか、部活後のグランドで2人で残るのが日課になっているのが不思議なんだけど…



「あんただって落ち込みなよ!

…ってゆうか、落ち込むほど必死にやってなかったもんね」


「おまえががむしゃら過ぎるんだよ」


素振りをしながらあたしのイヤミを軽く流す大和の額には、うっすらと汗が滲んでいる。


いかにも爽やかな外見がまたあたしのしゃくに障る。

…大和の外見のよさを言うのも今更過ぎるけど。


それに比べて…なんて無残なあたしの手。


汚れたボールを磨き続けたせいで泥だらけになっている自分の手を見て、妙に嫌になってしまった気持ちをため息で出してしまおうと試みる。


でも、長い深いため息をしても気持ちは落ち込んだままで…

大きなため息をついてしまった事に余計に憂鬱になった。


…なんて悪循環。



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