【短編】よわ虫kiss


カーブの切れは、日によってかなり差があるし、フォークだって落ちきらないで抜け球になるし、そんなすごい投手じゃない。


だけど、ストレートは伸びた。

そこまで剛速球な訳じゃないのに、バッターの手元で伸びる球は勢いがあって打ちにくい…らしい。


あたしがバッターボックスに立ちたいって言っても大和が嫌がるから、実際どうなんだかはよく分かんないけど。



…―――バシンッ!!


音を立てて、ミットに収まるボール。


なんだかんだ言っても、何かを真剣にする男ってカッコいい。

ぐっとくる。


だから、あのミットを真剣に見つめる目であたしを見つめられたりすると、すごく苦しくなって…

ギュッと胸が悲鳴をあげる。


どうしょうもなくドキドキして、制御が効かなくなる。


あぁ…本気で好き。

柄にもなくそんな事まで思ったり。


…こんな事大和には絶対言わないけど。



「五十嵐!

どうした?ストライク入ってねぇぞ!」


キャプテンの言葉に、マウンドの大和が小さくへらっと笑う。


どうやら調子が悪いらしい大和は、ぎゅっと帽子のつばを掴んでかぶりなおしてからまた視線をミットに向けた。


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