【短編】よわ虫kiss


「だって…行きたかったんだもん。甲子園…」


あたしがポツリともらしたのが聞こえたのか、大和は素振りを止めてこっちをじっと見た後、バットを空に向けて斜めにかざした。


ホームラン宣言する時のアレだ。


昔は流行ってたのかもしれないけど、今こんな事をする人いるのかな。


恥ずかしげもなく高々とかざす大和を少し呆れながら見る。

大和の後ろに点灯するナイターのライトが眩しい。



「ばぁか!

夏が本番だろぉが。オレが連れてってやるから安心しろ」


175センチを超えた身長に、細いながらもがっちりした体系。


1年から続けている野球部の練習に、その後の素振りや筋トレの自主練は、間違いなく大和の体を作り変えていた。


顔がいいから元々モテるのに、野球部のピッチャーという肩書きはその人気を後押ししてる。


髪だって、寛大な顧問の性格のおかげで、全員坊主でそろえるわけでもなく、プレーに支障が出なければいいっていう自由なスタイル。

…大和の坊主姿とか、想像しただけで笑っちゃうけど。


ってゆうか、もし坊主にしなくちゃだめだったら根性なしの大和はきっと野球部なんか入ってないだろうけど。



『夏』ね…

『夏』か…


だって、その頃には…



「…よく言うよ。

スタミナ不足で4回で降板したくせに。

聞いた事ないよ。エースがスタミナ不足。

監督もなんで大和なんかエースに置いとくんだろ」


今日はいつにも増して、皮肉めいた言葉が口をつく。

なんに対してのイライラなんだろう。



…多分、きっと、大和が原因な訳じゃない。

先月、春の甲子園の予選に敗れたからじゃない。


これは…、ただの八つ当たりだ。



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